「綺麗」
独り言が聞こえた気がする。ガラスケースに張り付いたままのしいなの独り言だ。
子供のように輝いた瞳の先にあるのは、淡い青色の玉が先についた人差し指ほどのアクセサリー。
少し小さめだがお守りのようにも見える。
店に入って、もう1時間になる。
買うのか買わないのかずっと観察していたが、ついにじれったくなってゼロスは声をかけた。
「なーに悩んでんだよ」
「えっ・・・何だゼロスか。脅かさないどくれよ」
振り返ったしいなは現実に引き戻されたような顔をしていた。
「脅かすつもりなんてねぇっての。で、何?これ欲しいのか?」
「・・・・欲しいっていうか、綺麗だなって思って見てただけだよ」
「ふーん。しいなも女の子っぽいもんに気があったんだなぁ」
「余計なお世話だよ!ったく・・・・」
そう言いながら再び視線をケースに戻す。
再び先程と同じような沈黙が流れ始めた。
ゼロスは呆れたように言った。
「欲しいなら買やいいじゃねぇか。いつまで悩んでんだ?」
「うるっさいんだよ!もうあっち行っとくれ!見てるのはタダなんだし、どれだけ悩もうがあたしの勝手だろ」
「そんなに見つめてたらお前の目力でガラスに穴が開いちまうっての」
「何だって!?」
「あーわかったわかった。わかったって」
もはや反射的に拳を向けるしいなに、ゼロスは手をひらひらさせながらその場を後にした。
「やれやれ」
少し離れた場所で、ゼロスはため息をついた。
しいなは相変わらずガラスケースの前に立ち尽くしている。
いつも自分と彼女の会話はあんな感じだ。
少しからかえば、彼女は必ず食って掛かってくる。面白いほどに。
しかし極まれに、彼女は凄く純粋な女の子に戻る時がある。
そのタイミングは予想ができず、ふと、そう見えるのだ。
まるで取り付かれたように見つめている彼女の近くには、店員がおろおろしながら立っていた。
先程の自分との会話を聞いて、声をかけにくくなったのだろう。
・・・・しゃーねぇな
「買ってやるよ」
先程と同じ角度から声がして、しいなは怪訝そうな顔を作って振り返った。
「・・・・どういう風の吹き回しさ」
「値段気にしてんだろ?」
「いいよ別に。買ってもらう程欲しいわけでも・・・・」
「気にすんなって。俺様、生まれてこの方金には困ったことねーの」
親指と立ててみせるゼロスに、しいなは更に眉間に皺を寄せる。
「急にどうしたのさ、気持ち悪い」
「うわー心外。お前、買ってやるって言ってんのにそんな言い方ねーでしょうに」
ゼロスは2、3回頭をかく。
普通の女の子は大抵すぐに丸め込める。他人も認める、自分の超得意分野のはずだ。
だが単純なはずの目の前の女の子は自分の言う事言う事にいちいち反応して、どうにも決着が付かない。
少々うんざりした様に、ゼロスは言った。
「良く良く見ると結構綺麗な色だって思ったんだよ。だから買ってやるから、しいなはたまに俺様に見せりゃいいの」
そんでいいだろ?とゼロスは首をかしげる。
しいなはちょっと考えるような顔をしたが、素直に礼を言った。
「ありがと」
「そう、最初からそれぐらい素直ならもっと可愛いのにな」
違う。
そんなこと無いと、ゼロスは心の中で否定していた。
だってこれが、しいななのだから。
一言多い、と言いながらもしいなの顔は喜びで満ちていた。
ゼロスは近くにいた店員に勘定を払い、アクセサリーを受け取った。
「ほらよ」
差し出されたそれを、しいなは嬉しそうに手に取った。
一瞬、"タイミング”が現れた気がした。
「・・・・・どうしても欲しかったんだよ。なんか、こいつがあたしを呼んでるような気がしてさ」
「なんだそれ」
店を出ながら、しいなはアクセサリーを顔の前に垂らした。
「ふふ、"アンタのため”なら遠慮せずに買って貰えるね」
しいなはいたずらに笑む。
その様子を見ながら、ゼロスも目を細めて笑む。
「しいなのためってことにしてもいいけど?」
「遠慮しとくよ」
青い玉が、太陽の光を受けて輝きながら揺れた。
アトガキ++++++++
トイレで思いついたネタです← 人生初ゼロしい。
平和な感じの話が急に書きたくなったので勢いで。
私的にはゼロス→しいなのほうが強いみたいです。しいなはゼロスも好きなんだけどやっぱりロイド君が好きみたいな。
しいなはゼロスの想いに気付いてないと尚良し(は
09.01.17