パシリ、と焚火にくべた枝がなった。
「アンナ、寒くはないか」
心配そうに尋ねた夫に大丈夫、とアンナは微笑んだ。そして、丸みを帯びてきた自分の腹を優しく撫でる。
冬がせまる秋の夜なのに、アンナは寒さを感じなかった。
それは心配性の夫の温かい気持ちのおかげなのか。
それとも、彼がいつもより大きめに作ってくれた焚火のおかげだろうか。
はたまたお腹の子が与えてくれる幸せのおかげだろうか。
(きっと、全部そうね)
ふふ、とアンナは笑う。
幸せだ。
自分も夫もクルシスに追われ、かれこれ何年も世界を巡っているけれど。
今この瞬間も、体に埋め込まれたエクスフィアが私の命を削っていくけれど。
不幸だなんて、一度も思ったことは無かった。
(あの人と、出会ってからは) そっと傍らの夫を見ると、どうやら彼はアンナをずっと見つめていたようで目があった。
「ねぇ、クラトス。あなたは今、幸せ?」
そう聞くと、彼は虚をつかれた顔した。
「…そうだな。幸せだ。
だが…」
「だが?」
「…だが、私達は命を狙われている。それでも幸せというのか…と」
暗におまえは幸せか、と言いたいようだ。
不器用な夫なりの気配りに、アンナの心は更に温かくなった。
「あら、そんなこと気にしてたの?」
あっけらかんとした妻の物言いに彼は目を丸くした。そんな夫に微笑み、アンナは言う。
「いつもあなたが守ってくれてるから、私は全然気にしてないわ。
私は今、とっても幸せよ」「…アンナ……」
クラトスはそっとアンナを抱き寄せ、耳元で囁いた。
「約束する。私の命に懸けて、必ずおまえとお腹の子を守る」
「頼りにしてるわ、パパ」
静かな冬の夜、焚火に照らされたクラトスの顔はわずかに赤くなっていた。