43 追跡者たち
シアン平原を東に抜けたところに小さな村がある。その村唯一の肉屋の主は店先であぁ、と声をあげた。
「あの紅い目をしたえらく美形な兄ちゃんかい?うん、たしかにこの村に寄って行ったよ。連れの女の子と一緒にね。うちの干し肉を買っていったんだ」
すると、向かいの男は目を丸くした。
「あいつが女の子を連れてたァ?マジで!?」
「ああ。かわいい顔したガルティウス人のお嬢ちゃんだったよ。なんでか知らんが真っ白なドレスを着てたからよく覚えとる。そうそう、それでそこの服屋でお嬢ちゃんの旅装を買ってたな」
「―――!…そっか、よかった。無事だったんだなココちゃん……」
ふいに男は顔をしかめた。傍らの女におもいっきり頬をつねられたのだ。
「ちょっとあんた、まさか忘れたんじゃないでしょーね?あたしたちが今、何をすべきか!」
「忘れてないって。忘れてないから、この手を離せ怪力女!俺の美顔が腫れちまうだろ!!」
「ふんっ」
勢いをつけて女は手を離した。だが、睨みを効かせるのは忘れない。
男は「痛ェ〜…」と頬をさすりながら再び尋ねた。
「えーと。なぁ、それでそのあと二人はどこへ行ったんだ?」
「たしか…双子山のほうへ向かうって行ってたな」
双子山とは、ガルティウス王国と双龍族の国境となっている二つの山のことだ。
二国は同盟関係にあるため関所はなく、誰でも自由に通ることができる。ただしレヴィネリア人以外に限るが。
「な〜んだ。アイツ、自分で帰ってくるならそう言えよなァ!俺たち超ムダ足じゃねーか」
「ホントにね。まったく…はた迷惑なお宝ね。『蘇芳』ってやつは」
男のため息と同時に、女もホッと肩を撫で下ろした。だが。
「そうそう。そんでな、ちょうどその時この村に来てたキャラバンについてったんだよ。『ゾルトナーガ』ってやつさ」
その言葉を聞いた途端、二人の顔から表情が消えた。
「ゾルトナーガだって…?間違いないのか!?」
尋常ならざる二人の様子に店主は圧倒され、ただこくりと頷くだけで精一杯だった。
女と顔を見合わせた後、男は懐から銀貨を数枚取り出し店主に握らせた。
「おっちゃん色々ありがとな。これお礼だからとっといて。そんじゃ!」
そう言うと同時にふっと男と女の姿が掻き消えた。
「なっ――!何だったんだ今のは…?」
残された店主は目をしばたかせた。