ざわ、と心地よい風が野を吹き抜ける。
夜の闇の中で、風に揺られたコレットの金髪が空に浮かぶ星のような光を一瞬だけ放った。
(―――眠れない……)
焚火のそばでコレットは膝を抱えた。すぐそばでは仲間たちが健やかな眠りについている。
彼らの規則正しい寝息を耳にしながらも、彼女は一度も横になろうとしなかった。
何故なら彼女はそれが無駄なことだと知っているからだ。
天使となり世界を再生するための旅の中で、コレットは少しずつ人間らしさを失っていた。
最初の封印で羽根が生え、同時に味覚を失ったことにはじまり、三つの封印を解いた今では眠ることができなくなった。かわりに、視覚と聴覚が異常なまでに発達した。
どんどん天使に近づいていく。人間では、なくなっていく―――
それは自分自身を失うようで、ひどく不安なことだった。
(だけど…それでも、私は―――)
その時、ロイドが身じろぎをし、コレットははっと我に帰った。こちら側に寝返りをうった彼は幸せそうな顔をして眠っている。
「ふふっ…。ロイド、どんな夢を見てるんだろ?…私の分も、素敵な夢を見てね」
コレットが微笑む。
その途端、ぎゅっと手を掴まれた。
「……コレット」
「えっ……!?」
「必ず…俺が守ってやるからな……」
そう言うとぱたりと手を離し、彼はまた寝息をたてはじめた。どうやら寝言だったらしい。
彼らしい寝言にコレットはくすっと笑った。
「夢の中でも私のこと、心配してくれてるんだね。ありがと、ロイド……」
離れた手を、今度はコレットが握った。
「私、ロイドを信じてるよ。だから私も……必ずこの世界を再生するね」
たとえそれが、自分の死と引き換えだったとしても。
「大好きだよ、ロイド……」