―――それは、しいながゼロスと二人で街に買い出しに出かけた時のこと。
「神子様、お誕生日おめでとうございます!」
「お祝いにこれ、受け取って下さいっ」
娘達からぞくぞくと手渡されるプレゼントの山を見て、しいなは呆れ返っていた。
「それにしても、本当にすごい量のプレゼントだねぇ……」
「まーな。やっぱ俺様超人気者〜」
「あーはいはい。そーいうことにしといてやるよ」
ゼロスを軽くあしらうと、しいなは両腕に抱えた荷物を持ち直した。
「で、なんか欲しいものあるかい?本当は当日までに準備しとくもんなんだろうけど、何がいいのかあたしにはさっぱり分かんなくて」
すると、ゼロスが目を丸くした。
「なに、おまえもくれるの?」
「当たり前だろ。あんたも一応大事な仲間なんだからさ」
「…ふーん。大事な仲間……ねぇ」
ゼロスの声が少し沈む。
(俺が思ってほしいのは仲間として、じゃないんだけどな……)
この手のことにはかなり鈍い彼女は、きっと自分の気持ちに気付くことはないだろう。
だったら、気付かせるまでだ。
「それで何がいいんだい?あ、高い物は自分で買いなよ。アンタ金持ちなんだから」
「俺は女の子にたかったりしねーっつの!―――かわりに一つだけ頼みがあるんだけどよ」
「頼み?何だいそりゃ」
「そんなたいしたことじゃねぇよ。ちょっと、こっち向いてくれ」
言われた通りにしいなが振り返った瞬間、しいなの唇にゼロスの唇が重なった。
それはほんの一瞬の出来事で、唇に触れた熱はすぐさま離れた。
しばらくして、意識の覚醒とともにその熱は全身へと広がっていった。
「あっ…あんた今なんてことを!」
いつもどおり殴ろうとしたが、両手は荷物で塞がっていた。
それをいいことにゼロスは満面の笑みを浮かべた。
「ごちそーさん」