ロイドたちの手によってミトスが倒され、世界が統合されてから数日が経ったある夜―――

漆黒の空に輝く星たちを、クラトスは一人眺めていた。

あるかなしかの風が彼の鳶色の髪を揺らした時、背後から足音が近づいて来た。

「あっ、クラトスさん」

聞き慣れた可愛いらしい声に振り返る。

「…神子か。どうしたのだ、こんな時間に」

「えへへ、なんだか眠れなくて。クラトスさんは?」

「…私も同じようなものだな」

ふと再び夜空の月を見上げ、コレットは言った。

「――明日、本当に行ってしまうんですか?デリス・カーラーンに」

「…ああ、もちろんだ」

「本当にいいんですか?二度とロイドに会えなくなっても」

コレットの大きな瞳がじっとクラトスを見つめる。


「もし私がクラトスさんなら、絶対に嫌です。…私は天使になる直前にお別れした時、すごく悲しかった。
死ぬことよりも、ロイドに会えなくなることのほうが、ずっと……」

言葉の端々から彼女の必死さと優しさがひしひしと伝わってくる。

「……ありがとう」

「えっ…?」

何のことかと不思議そうに首を傾げるコレットにクラトスは微笑んだ。

「ロイドのことをそれほどまでに想ってくれる者がいるからこそ、私はなんの心配もなく旅立てるのだ」

「そんな……」

「心配せずとも、私は大丈夫だ。
たとえそばにいなくても、私はずっとお前たちと共にあるのだから」

畳み掛けるように言うとコレットがふふ、と笑った。

「クラトスさんらしいですね。……でも、そのとおり」

たとえそばにいられなくても、ずっと一緒―――。
それはかつて、コレットが世界再生の旅に出た時に思っていたことだった。

「―――さぁ、そろそろ部屋に戻ったほうがいい。起きれなくなるぞ」

「あ、はい。じゃ、おやすみなさい、クラトスさん」

「ああ」

くるりと背を向けて来た道を戻っていくコレットを見送っていたクラトスは不意に呼び止めた。

「……コレット」

名前で呼ばれたことに少し驚きつつ、コレットが振り返る。

「どうしたんですか?」

「……いや、なんでもない。おやすみ」

首をかしげながらもにこっと笑ってコレットは踵をかえした。
去っていく細く小さな背中にクラトスはぽつりと呟いた。

「―――ロイドを頼んだぞ、私の義娘よ……」