事の始まりは、ゼロスの何気ない一言だった。
「ロイドくんって〜どんな娘がタイプなんだ?」
一拍後、ロイドの「はぁ?」という言葉によって沈黙はやぶられた。
「なんだよ、ハブから棒に」
「それを言うなら、薮から棒、でしょ」
傍らのジーニアスが適確なツッコミをいれた。
「そうそうそれそれ!で、いきなりどうしたんだよ」
「んー、いや特に意味はねーんだけどよ。
ただ、ロイドくんの口から色恋ごとの話って聞いたことないからちょっと気になってな」
「そういえばそうだね。ま、ロイドはそういうの興味ないから当然といえば当然なんだけどさ」
暗にお子様と言われ、ロイドはむっとした。
「き…興味ないことはないぞ!俺だって―――」
「じゃ、どんなのがタイプなんだ?」
「え、えーと……急に言われてもなぁ……」
「例えばちょっとドジで天然な天使ちゃんなんてどーよ?」
「……それ、コレットだろ」
「んじゃ、甘え下手で素直になれないところがいじらしいボインくノ一とか」
「それはしいなだろ」
「ていうか、ゼロスってしいなのことそういう目で見てたんだ……」
そこに、絶妙のタイミングでしいなが現れた。
「ゼーロースー……!」
「げっ!おっ、お前タイミング良すぎだ―――」
「こんのアホ神子がー!!」
凄まじい効果音とともにしいなのゲンコツがゼロスの頬にめりこんだ。
「ホントにアンタはしょうがない男だね!何くだらないことを聞いてんだい!!」
「いって〜!んだよ〜せっかく俺様がしいなのために聞いてやってるのにこりゃないっしょ!?」
「は?あたしのため??」
咄嗟についた言い訳だったが、思いもよらないことをいわれたしいなは第二発をくらわせようとしていた拳をピタリととめた。
それに内心ホッとしつつ、ゼロスは耳打ちした。
「お前も知りたいだろ?ハニーの好み」
「ばっ、馬鹿言ってんじゃないよ!なんで私がそんなこと……!!」
顔を真っ赤にして否定するしいなに、やっぱ素直じゃないな、とゼロスは思った。
「ま、とにかく聞いといて損はねーから大人しくしててくれよ」
「……ふん」
満更でもなさそうなしいなにくくっと笑ってからゼロスは本題に戻した。
「それじゃ、他には知的で大人の魅力たっぷりの女教師とか?あ、もしかしてツインテールがかわいいクールなロリ少女とか!?」
「だからなんで仲間内ばっかなんだよ!」
「いーじゃねーの。で、結局のとこハニーはどんなのが好みなワケ?」
するとロイドはうーん、と首を傾げた。
「んーそうだな……。あっ俺、年上が好きなのかも」
「おぉ!?意外だな〜」
年上と聞いた途端にしいなの肩がピクリと動いたのを横目に見つつ、ゼロスが言った。
「あ、でも言われて見ればたしかに。ロイドの初恋の人って姉さんだしね」
「あっ!おいジーニアス、それは内緒の約束だろ!」
慌てるロイドをよそに、ゼロスはしいなに耳打ちをした。
「よかったな〜脈アリかもしれねーぜ?」
「な、何言ってんだい!別にただ年上ってだけだろ」
「いいじゃねーの。もしかしたらコレットちゃんに勝てちゃうかもよ〜?」
「あ、あたしは別に……」
と、二人が話していると。
「……でもなぁ。多分俺、それがタイプってわけじゃないんだ」
「え?どういうこと?」
ジーニアスの問いに、ロイドが珍しく考えこんだ。
「よくわかんねーけど、もしかしたら女の人に母さんを重ねてるのかもしれないんだ。ほら、俺小さい時に母さんが死んだからさ。
無意識に母さんのぬくもりっていうか、そういうのを求めてたのかもしれない」
「ロイド……」
気遣わしげなしいなの声にロイドは明るく笑った。
「なーんてな!なんか俺、すごくカッコ悪いこと言っちまったな。忘れてくれ」
「カッコ悪くなんてないさ!子供が親を慕うのは当然だよ。
あたしも小さいころは『大きくなったらおじいちゃんのお嫁さんになる!』って言ってたらしいし……」
「えっマジで!?」
場違いな声を出したのはゼロスだ。
「……なんであんたが食いつくのさ」
「いやー、まさかと思ってつい。そーか、意外だったな〜。しいなのタイプが年上どころか年くったじいさんだったなんて!」
でひゃひゃと笑うゼロスは次の瞬間、飛んでくる拳とともに殺気を感じた。
「この…アホ神子がーッ!!」
吹っ飛んでいくゼロスを眺めつつ、ジーニアスははぁ…とため息をついた。
「まったく……素直じゃないのはどっちなんだか」