その日の夜、気持ちの良い夜風が吹く城のテラスで王家の者と重鎮達、そしてキアラが集められ、静かながらも華やかなパーティーが行われた。


「皆の者。今宵のパーティーへようこそ。今宵は我が国の誇る騎士団団長の若獅子、キアルアーズ・クレシェアの旅立ち祝いだ。
 では、キアルアーズの無事を祈って乾杯!」

王の掛け声と共にパーティーへ集まった者との心境とは裏腹に明るい、透き通ったグラスとグラスがぶつかり合う音が響いた・・・・・
しかしそれ以降、会場には穏やかな風の音しか聞こえなかった・・・・・


そんな空気がどれだけ続いただろうか。
そして皆が何かを喋らなくては・・・パーティーを盛り上げなければ・・・・と思い始めた頃、青色系統の衣装に身を包んだ黒髪の女性が入って来た。

「遅くなって申し訳ありません。クラッツから参りました踊り子のエリアスと申します」

その女性は静かに、淡々とした口調で話した。王は待ちわびていたように
「ほう・・・・そなたがクラッツ1の踊り子のエリアス殿か・・・エリアス殿、早速で悪いが踊ってくれぬかのう」
と踊りを申し込んだ。

会場内に静やかな・・・・品のある・・・・しかし堂々とした曲が流れた。

それに合わせてエリアスという女性は優雅で力強く踊った・・・・。
その姿はとても綺麗で誰もが見とれてしまうほどであった。
しかしただ綺麗なだけではなく・・・・何故か不思議な感じもした。

そんな事を皆が思っている間に・・・・あっという間に踊りは終わった。
会場は歓声と拍手で包まれていた。





こういうパーティーは苦手・・・・キアラは席を外して一人で城の周りを散歩することにした。

これからの事を考える為にも一人になる時間が必要だった。一人だからだろうか・・・
先程まで心地よかったはずの夜風が少し冷たく感じる。

「キアルアーズ様・・・・ですか?」

ふと後方から声がした。暗くてよく見えないが、この静かな淡々と話すのはエリアスという踊り子だろう。
「ああ・・・・そうだが・・・・」
折角一人になろうと思ったのに邪魔が入ったか・・・・。そう思いながら私は素っ気無く返事をした。
「あの・・・私もキアルアーズ様と共に旅をさせていただけないでしょうか?そしてガーボエルにも・・・・」
「は?」

この女は何を言っているのだろうと思った。初対面で、いかにも戦ったことありませんというような奴が何を言ってるんだ・・・?

「確かに私は経験などはありませんし、逆に足手まといになるかもしれません。
 けれど、私は踊り子です。何処ででも私なりの方法で情報を得ることもできますし、今までユレイス大陸にある全ての国の書物を読みましたので多少も知識は持っております。
 そういう情報・・・役に立ちませんか?お願いします。私も度へと連れて行って下さい。
 ガーボエルがアズベリアに入れば当然ユレイス大陸全ての国が支配されます。ガーボエルはとても恐ろしい国です。
 私はクラッツが大好きです。その大好きな国を危険な目に遭わせたくありません。そのために私は役に立ちたいのです。
 お願いします。キアルアーズ様」

彼女は静かな口調で話していたが、その黒い瞳はクラッツを守りたい一心か、赤く・・・・燃えているように見えた。

「・・・・・」
私には返す言葉が見つからなかった。彼女が熱い想いを抱いているのはよく分かった。知識を・・・・情報を得ていることもよくわかった。
しかし彼女を・・・・他人を自分の重要で・・・・とても危険な任務に巻き込むことはできないからだ。

彼女の目は真っ直ぐとこちらを向いていた。

「良いんじゃね?キア。その女も連れてってやれば」
「シウ」
私が返事に困っている時、横からシウの声がした。
「だってさすがに力尽くで同盟組めねーし。多少の情報もいるだろう?」
「でも・・・・」
「俺が守る!!キアも、その女も!!それでどうだ?」

正直、私はこのシウの真っ直ぐな言葉に弱い・・・・・
「・・・・考えとく」
私はこの言葉を残し去った。
一体あの二人をどうすれば・・・・
キアラの頭の中はもうゴチャゴチャだった。




――・・・ごめんなさい・・・キアラさん・・・。そしてお願い・・・キアラさん・・・・。

今まで私はずっと逃げてきた。困難は避けてきた・・・。
大切な人を傷つけたりもした。
もうそういうのが嫌なの。
これであなた方と旅をすれば私は変われる気がするの・・・・。

だからごめんなさい・・・・・足手まといを自分で承知しながらもついて行きたいの・・・・。
お願い・・・・キアラさん・・・・・・。







―――静かな夜、それぞれはこれからについて考えていた。

愛・戦・守・想

それぞれが頭の中で交差する・・・・・
答は日が差せばすぐ見つかるかもしれないし、
何度も日が差してもなかなか見つからないかもしれない。

でも明日は来る・・・・・




時間がない――――――