7 リーゼラント城



リーゼラント城の中は、更に絢爛豪奢だった。

まず、鏡のように姿見ができるほどピカピカに磨かれた大理石が出迎えた。天井から吊された巨大なシャンデリアは、太陽と見紛うほどの光を放ち、壁に掛けられた、黄金の額縁の歴代国王の肖像画は実に写実的で、今にも動き出しそうだった。
吹き抜けには、村にあったものとは比べようもないくらい優美な噴水もあり、中央には絶世の美女と名高い4代前の王妃の銅像が佇んでいた。

あまりの豪華さにココが目眩をかんじながら広すぎる廊下を歩いていると、前を歩いていたギルストの足が止まった。

「…一つ忠告しておいてやろう」

「え…?」

ギルストは振り返ると、声を低めて告げた。

「お前がこれから謁見する我らが王子、サフィアス様は繊細なだが同時に他人に厳しい方だ。故に白薔薇の君とも呼ばれている。命が惜しければ、逆らわずに大人しくしていろ」

――命が惜しければ――

(そうだ…ここはガルティウスなんだわ)

レヴィネリア人にとって死と隣り合わせの地なのだ。そしてこの美しい城も例外ではない。
ココが顔を強張らせると、白い指が絡んできた。

「安ずるな。この任務さえ終えればすぐに愛妾にしてやる」

「だっ…誰があんたなんかの…!」

「怒ってはせっかくの愛らしい顔が台無しだぞ。…さて、そろそろ行くか」

再び歩きだしたギルストの背をココは見つめる。

(逆らえば殺される…か。冗談じゃないわ…!)

彼に…ジークにもう一度会うまでは死ねない。生きるためには憎い敵といえど、逆らうわけにはいかない。

(たとえ私が王子を治療することでガルティウスがレヴィネリアを侵略し始めることになっても……って)

さーっとココの顔が青くなる。
今、重大なことにようやく気付いた。

(私、魔法使えないんだった!)

おそらくギルスト達が求めているのは、母が治療に使っていたような治癒術だろう。
しかし魔法の使えないココには薬学と医学の知識しかない。その上、その知識さえも化学の発展により医療の発達したガルティウスには劣っているのだろう。
ココはセレニエ村での任務失敗に激昂し、部下を皆殺ししたギルストを思い出した。

(殺される…!!)

全身から血の気が失せ、嫌な汗が吹き出す。

そのまま倒れそうになったココを、骨張った大きな手が支えた。振り返ると、赤い瞳が自分を見下ろしていた。

「…ガーネット」

ココがその名を呼ぶと、ガーネットは小声で言った。

「逆らってはいけないと言っただろう」

相変わらず感情のない声だった。だが、ぽつりぽつりと何かを思い出しながら話していた昨日とは違い、流暢な話し方をした。

「…ごめんなさい。力が抜けちゃって…」

ガーネットは顔が青いままのココを一瞥すると、いきなり彼女を抱き上げた。

「きゃっ…!ちょっと、何するの!」

「黙って大人しくしてろ」

そのままギルストの後をついていってしまう。
仕方なく抱えられたままでいると、やがて突き当たりに荘厳な扉が見えてきた。

「ギルスト・ルドナー、只今参上致しました」

ギルストの言葉と同時にガーネットがココを降ろすと、二人の小姓によって扉が開かれた。