10 鎧人形
「なんてことを…!」
ココは震える手で顔を覆うと、朔夜が首を振った。
「…まだ終わりじゃないぜ、ココちゃん」
「え…!?」
「見てみな」
朔夜に促され、ココは恐る恐る窓から覗いた。
錬金術師達は錬成陣の上に均等に並び、頷きあった。そして彼らが両手をかざした瞬間――
錬成陣が閃光を放ち、塔が光に包まれた。
「――…さぁ、今こそ生まれ変わる時だ」
錬金術師の狂喜に満ちた声が塔に響き渡る。
「目覚めろ、鎧人形<ゾルシード>!!」
閃光が弱まった時、目を疑う光景がそこにあった。
「ど…どうなってるの…」
ココの口から驚愕の言葉がこぼれた。
錬成陣の上に置かれていた人形――すなわち鎧人形の姿が、その横に横たわる死体の男の姿に変わっていたのだ。
そのうえ、錬金術師の声に導かれるかのように、その鎧人形が一人でに動き出した。
「おまえは今日から永久にこの国の兵器だ。国のために存分に働け、製造番号071よ」
鎧人形は表情がないまま頷いた。
その光景は、まるで…
「生き返ったみたい…!」
「またまたピンポーン♪」
朔夜が明るく言った。
だが、今度は目が笑っていない。
「あの鎧人形ってのは、鎧と死者の魂を錬成してできた言わば、サイボーグさ」
「サイボーグ!?何の為にそんなものを……あ…!」
もしかして、とココが朔夜を見る。
「そう。兵器として戦争で使う為だ。恐れも痛みも感じない。逆らうことも死ぬことさえもない最強の兵器。それが鎧人形さ」
朔夜が続ける。
「戦争のために夜な夜な殺戮が行われる製造室――それがこの『悪夢の塔』の名の由来だ」
悪夢の夜が明けた。
だが、ココは一睡もすることが出来なかった。
昨夜の出来事が目に焼き付いて頭から離れなず、ずっと一人で震えていたのだ。対して、朔夜はあの後すぐに熟睡していた。
そして今も看守の運んできた朝食を、文句をぶちまけつつ食べている。
「ったく何だよこのパン!固すぎだっつーの!!やっぱ朝は米に限るよなー。な、ココちゃん」
「…なんで朝っぱらからそんなに元気なわけ」
「あっはは!俺から元気を取って何が残る?顔だよなー!!」
「………」
ココはパンをかじる事を優先する事にした。
「何だ何だ?元気ねーなー…あ、もしかして昨日のこと気にしてる?」
「…当たり前でしょ。あんな光景を見た後によだれ垂らして眠れるほうがおかしいわよ」
「まー俺も最初はちっとビビったけどな。でもふた月もいりゃあ人間どんな状況でも慣れるもんさ」
「慣れって…!ここにいる以上、朔夜も私もいつかああなるのよ!?」
「いや、ならねぇさ。俺はな」
「…なんでそう言い切れるの?」
朔夜は不敵な笑みを浮かべた。
「きっとアイツが助けにくるからさ」
「アイツ?」
「妹だよ。知ってるよな?双龍族は双子で生まれるんだって」
双龍族は名のとおり必ず双子が生まれる。
双子の心が一つになる時、龍の如き力を発揮するという――
「俺と妹は長の命令である物を捜しすために、この城に侵入したんだ。俺達は無事そいつを見つけたんだが…そこで俺がヘマかましちまってな。なんとか妹を逃がして捕まった」
「…いいとこあるじゃない。妹さんととっても仲良しなのね。私には兄弟がいないから、羨ましいわ」
「いやいや全然仲良かないって!アイツ気が強いうえ口うるさいから毎日喧嘩してたぜ」
口を尖らせて言う朔夜を見て、ココは微笑んだ。
「それでも妹さんの事、信じてるんでしょ」
「…まーな」
珍しく朔夜が照れた。
「それで、捜し物ってなんだったの?」
「あーそれはだな、双龍族の秘宝でもある――…」
突然朔夜が黙り込んだ。
どうしたのと言おうとしたココも口をつぐんだ。
カツン…
カツン……
何者かの足音が近づいてくる。
ココが身を強張らせて鉄柵の廊下を凝視していると、思いもよらない人物が現れた。
「あなたは――…!」
そこには冷たい双眸でココを見下す、ルドナー卿の姿があった。
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