11 ココ、死す



「…何しに来たのよ」

ココの鋭い視線を受け流して、ルドナー卿が重々しく口を開いた。

「…ここから出たいか」

「!?」

思いがけない言葉にココは目を丸くした。周りの囚人達も驚きを隠せないでいるのが目の端に映った。

「本当に…ここから出してくれるの」

「私が嘘をついて何の得がある。…さぁ、出たいのか、出ずに裁きを受けるのか。さっさと決めろ」

もちろん、答えは決まっていた。

「出たいわ」

すると、ルドナー卿が冷めた笑みを浮かべた。

「よかろう。ならばお前にはその代償を支払って貰わねばな」

「代償…って」

「私の養女になる。それだけだ」

「養女…!?」

てっきりギルストが言っていたように、愛妾にされるか、それとも奴隷にされるかだと思っていたココは驚いた。

「ただし、名を捨ててもらう。重罪人ココ・メルフィードを娘にするわけにはいかないからな」

名を変える。つまり、ココ・メルフィードという存在はこの世から消えるのだ。だがこの男の養女となれば、ここから出られる。
ジークにもう一度会うことができるかもしれない。
迷いはなかった。
ココはそっと後ろを振り返った。

「朔夜、短い間だったけど、いろいろありがとう」朔夜は笑っていた。

「せっかくこれから二人っきりのスイートライフ♪が待ってると思ったのにー…なんてな。よかったな、ココちゃん。今度は外で会おうな」

「そうね。その時は、自慢の妹さんを紹介してよね」

自慢じゃねーって!と主張する朔夜にもう一度礼を言って、ココは鉄柵の扉をくぐった。

「今この瞬間、ココ・メルフィードは消滅した」

ルドナー卿が恭しくココの手をとった。

「今からお前はルドナー公爵家の二の姫にして、世継ぎサフィアス殿下の婚約者、シェリー・ロズリエ・ルドナー姫だ」