12 母の面影
わなわなと、ココの体が怒りのあまり震える。
「よくも騙したわね…!」
忌ま忌ましげに顔を歪ませ、全身で怒りを表す。
「あの王子の婚約者になるなんて聞いてないわよ!」
すると、ギュッと体を締め付けられた。
「くっ、苦しいってば!」
ココが慌てて抗議すると、嘆息が聞こえた。
「姫様、もっと息を吸って下さいまし。このままではコルセットが付けられませんよ」
美しい侍女の困り顔を見てもココの怒りは収まらなかったが、とりあえず鏡に向かって怒りをぶつけるのは止めた。
「コルセットなんてつけなくてもいいじゃない!私、痩せっぽちだから」
必死の嘆願も虚しく、別の侍女が柳眉を上げた。
「いけませんわ、姫様。未来の王妃様がそんなことでどうするのです」
だから違うって、という気力もなくなりココは肩を落とした。
ルドナー卿の手によって『悪夢の搭』からの脱出したココは、その後彼にこのルドナー公爵邸へと連れて来られた。
そして今、「相応しい姿にしろ」というルドナー卿の命により、ココは侍女達の手で着飾られているところなのだ。
なんとかコルセットを付けることに成功した侍女達は、今度はココにエメラルドグリーンの美しいドレスを着せ、長い金髪を綺麗に結い上げた。そして最後に化粧が施される。
「まだお若くていらっしゃるから、化粧は薄いのほうが綺麗に見えるのではなくて?」
「姫様はレヴィネリアで育たれたそうよ。見て、この白い肌!白粉は付けなくていいですよね」
「サフィアス様と並ばれても、見劣りなさらないようにしなければ」
侍女達はああでもない、こうでもないと議論しながらココを飾り立てる。
どんどん美しくなっていく鏡の向こうの自分に、ココは見入っていた。
(なんか…お母さんみたい…)
ココの容姿はほとんどガルティウス人の父親に似たようだが、顔立ちは母に似ていた。
だからこそ、母はまるで自分がガルティウス人になったような姿の娘を嫌ったのかもしれない。
「ごめんね、お母さん…」
ココがそう呟いた時、部屋の扉が開かれた。
「ほぉ、なかなか見れるようになったな。ま、もとは悪くなかったしな」
「ギルスト…!」
ココは扉に寄り掛かるギルストをありったけの怒りを怒りを込めて睨んだ。
ギルストがそれを片頬で笑う。
「お兄様とつけ加えるべきだな。…父上がお呼びだ。ついて来い」
「…分かったわ」
再び胸に怒りが沸き上がってきた。
何故、ルドナー卿が重罪人となったココをわざわざ引き取り、世継ぎの婚約者などにしたのか、ココには分からない。だが、何かにココを利用しようとしているのは察した。
(甘いわね。私も利用してるんだから)
ココはドレスの裾を踏まないように気をつけながら、歩きだした。
ジークにもう一度会うために。
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