13 ルドナー公爵家



屋敷の一番奥にある、ひときわ立派な扉をギルストがノックした。

「入れ」

ルドナー卿の声とともに、部屋に足を踏み入れたココは、室内の光景に唖然とした。

「ほぅ…思ったより良い出来だ。サフィアス様の婚約者として、外見だけは申し分ない」

満足そうなルドナー卿の失礼な言葉も耳に入らない。

な…何なのこの人達!」

ココは部屋中を見回した。部屋の中には、ココやルドナー卿、ギルストのほかに、数え切れないほどの女性と少年がいたのだ。当然、全員金髪に青い瞳のガルティウス人だ。女性達は色鮮やかなドレスを纏い、美しく化粧した美女ばかりだ。その隣の少年達は、小さい者は三歳くらい、大きな者は成人している青年までいた。女性達も少年達も、どちらも人形と見紛うほど美しい容姿をしていた。
だが、その誰もがココに憎悪のこもった視線をぶつけてくる。

「これは私の妻子…つまりおまえの継母と義理の兄弟達だ」

淡々と言うルドナー卿をココは凝視した。

「まさか…この人達全員なの!?」

「この屋敷に住んでいるのは、これで全員だ。ほかにおまえのような隠し子がいるかもしれないがな」

「信じられない…」

一夫一婦制のレヴィネリア帝国とは違い、ガルティウス王国が一夫多妻制とは聞いていたが、まさかこれほどとは。

「しかも見事に男ばっかり」

ざっと見て二十人ほどいる異母兄弟は全員男だった。隣にいるギルストもそのうちの一人である。
すると、ルドナー卿が首を振った。

「もう一人だけ娘がいる。そろそろ支度が終わるはずだが…」

「遅くなって申し訳ありません、お父様」

鈴のような声が聞こえてココが振り返ると、一人の女性が立っていた。

(綺麗な人…)

その人は部屋に溢れかえるルドナー卿の妻達のように、華やかな美しさはもっていなかった。しかし清楚な装いや、ただ立っているだけで漂う気品が彼女の凜とした美しさを引き立てていた。
あまりの美しさに状況を忘れてココが見入っていると、女性がココに気付いた。すると、女性は目を輝かせてココの手を握ってきた。

「まぁ、貴女がシェリーね!わたくしのたった一人の妹!!なんて可愛いのかしら」

「えっ!?」

妹、ということは。
ココがルドナー卿を見る。

「そう、これが一の姫、シャルロットだ。――ではシャルロット、シェリーを頼むぞ」

「はい、お父様」

え?とココが首を傾げていると、シャルロットが白い指をパチンと鳴らした。瞬時に入ってきた従者が、ココを担いだ。そのまま扉へ向かって歩きだす。

「ち…ちょっと!どこに連れてくのよ!」

担がれたまま叫ぶと、ルドナー卿の嘆息が聞こえた。

「おまえはこれから一月後の結婚式まで、離宮で花嫁修行をさせる。その口のきき方をシャルロットに直してもらえ」

「はぁ!?」

驚くココに構わず従者は部屋を後にした。
聞いてないわよ――!!という捨て台詞を聞いて、シャルロットはくすりと笑った。

「ふふ…元気な子ね」

「姉上…」

そっと呼びかけたのは、ギルストだった。

「…何ですか、ギルスト」

「…玄関までお送りします…お手を」

シャルロットは差し出された手をしばらく見つめ、ゆっくり手を重ねた。

「…ありがとう」

鈴のようなその声が、微かに震えていた。