「――今夜は月が綺麗ね。まわりの星たちも煌いて…ロマンチックだわ」
城の中庭から夜空を見上げ、ソレイユが言った。
「…ソレイユ姫。一体何の御用ですか」
臣下らしく半歩遅れて歩くクラトスが尋ねると、彼女は拗ねたような顔をして振りむいた。
「あら、用がなければわたくしとはお話ししてくださらないの?」
「いえ、そういうわけでは…。ですが舞踏会を抜け出されてとなると、臣下として聞かぬわけにはまいりませぬ」
「自分はサボったくせに?」
「……」
するとソレイユはクスクスと笑いはじめた。
「あなたって、相変わらず律儀なのね。まぁいいわ。私が舞踏会を抜け出したのはね、単につまらなかったからよ」
「つまらないなどと…」
「姫君が仰るものではありませぬ、でしょ?侍女達にも散々言われたわ。でも、本当につまらないんですもの。
口から出るのは社交辞令ばかりだし、触りたくもない方とダンスをしなければならないし…。それに加えて、今夜はあなたもいなかったのだもの。
退屈して当然だわ」
それきりぷい、と顔を背けてしまったソレイユにクラトスは苦笑した。
(本当に、この姫君はいつまでたっても変わらぬな…)
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