「クラトス、あなたずばり縁談を押しつけられるのが嫌で舞踏会をさぼったんでしょう」
途端、クラトスは返事に窮した。…図星だった。
「…どうしてそれを?」
「このところのあなたを見ていれば一目瞭然よ。顔には出さなくてもわたしには分かるわ」
でも、とソレイユは続ける。
「そんなに縁談が嫌なら先手を打って所帯を持てばよろしいのではなくて?だいたい28歳にもなって独身の貴族なんてあなたくらいのものよ。どうして結婚しないの?」
「…今はただ騎士として自分の腕を磨きたいからです。それに、私のように無骨な男には所帯など持てませぬ」
「無骨だなんて…。あなたは人より真面目で少し不器用なだけよ。本当は、他の誰よりも優しい人だわ…」
するとクラトスは少し目を丸くし、ふっと微笑んだ。
「…ありがとうございます。ですがお優しいのはソレイユ姫、あなたのほうです。――あなたにお仕えすることができて、私は幸せです。私は、あなたの臣下であることを誇りに思います」
ソレイユは思わず頬を赤く染めた。しどろもどろになりそうになるのを必死で抑える。
「そ…そろそろ戻りましょう。侍従たちがわたくしがいないことに気付くころだわ」
背を向けて歩き出した姫をクラトスが追うと、数歩歩いたところで彼女は立ち止まった。
「…姫?いかがなさいました」
「―――ら…」
「…?今、何と?」
するとソレイユが勢いよく振り向いた。つかつかとクラトスに歩み寄り、つま先立ちをする。
そして気付いたとき、クラトスはソレイユに口付けられていた。
突然のことにクラトスが固まっていると、ソレイユはそっと唇を離した。暗くてよく分からないが、その顔は赤くなっているように見えた。
「わっ…わたくし、待ってますからっ!あなたがわたしのことを見てくれるまで!」
言うが早いか、ソレイユはドレスの裾を持って走り去ってしまった。
「姫!…行ってしまわれた…」
一人残されたクラトスは、その場にただ呆然と佇んでいた。
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