中庭を走り抜けると、ソレイユは息を切らしたまま顔に手を当てた。

触れた頬はまだ熱く、鼓動も速まったままだ。

「…ついに言えたわ」

幼いころから抱き続けてきた想いを、ついに伝えられた。

ほっとため息をつき、ソレイユは中庭を振り返った。

「クラトスは…どう思ったのかしら……」

もし拒絶されたら、と思うとやはり胸が痛む。そしてそれ以上に元の関係に戻れなかった場合を考えるのが怖かった。

「…クラトス…」

ずっとそばにいてくれた人。

他の誰よりも自分を大切に思ってくれた人。

実の兄のように慕っていた彼に恋心を抱くようになったのはいつだろう―――

ふと、物思いに沈んだ時だった。

「――姫様。ソレイユ姫様!」

突如聞こえた声にソレイユはびくりとした。現れたのは舞踏会に置き去りにしてきた侍従だった。

「こんな所にいらっしゃったのですか。まったく、少しは捜すこちらの身になってください」

眉をつりあげて説教を始めた侍従にソレイユははいはいと返事をした。

「お説教なら後で聞くわ。それよりもあなた、私を迎えに来たんでしょ」

するとはっと侍従は我に返り、今度はあたふたと慌て始めた。

「そそそそうでしたっ!大変なんですよ姫様!」

「…何かあったの?どなたかがお酒に酔われて大暴れしてるとか」

「そんなことではありません!…もうすぐ、陛下から重大な発表があるのです」

「重大な発表…?」

「はい…実は―――」

辺りに誰もいないことを確認すると、侍従はソレイユに耳打ちした。


「…実は、姫様と隣国ロストギルスのグレイン王子のご婚約が決まったのです」



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