3 惨劇と母と子
白銀の神レヴィネルの子孫といわれるレヴィネリア人には、いくつかの特徴がある。
一つは、神と同じ銀髪に薄紫の瞳という出で立ち。
もう一つは、生れつき神の力ともいわれる魔法が使えるということ。
どちらもレヴィネリア人だけの特徴だ。
――ココはどちらの特徴も持たずに生まれた。
代わりに太陽のように鮮やかな金髪と海のような青い瞳、そして左手に呪いの刻印をもって生まれた。
金髪に青い瞳は敵国ガルティウス人の証。
つまり、ココはレヴィネリアとガルティウス、両方の血を継いでいるのだ。
薬草の群生する近くの森にやって来たココは、早速薬草を摘みはじめた。
腹痛を和らげるグルゴールに、治癒力をたかめるメンティリア、解毒には欠かせないポリー。これらの薬草の識別を、ココは幼い頃独学で修得した。母に喜んで欲しかったのだ。
だが、母は無関心を貫き通した。幼い頃はただ悲しかったが、自分の出生を知ってからは諦めがついた。
16年前、国境に近いセレニエ村はガルティウス王国軍の襲撃を受けた。ガルティウス軍は虐殺、略奪の限りを尽くした。その際、ココの母アザリナはガルティウスの兵士に強姦され、名医と名高かかった祖父は殺された。
その数ヶ月後、アザリナの妊娠が発覚した。そして生まれたのがココだ。
この出生の秘密を知ってココは母の態度に傷付きつつも、これが当然の対応なのかもしれないと思うようになった。母がココを産んだのは、今の彼女と同じ16歳のときだったのだ。
更に、生まれて来た赤子は呪い持ちだった。母に聞いた話によると、母を襲った軍人の左手にもあったらしいので遺伝したのだろう。
だが、ココ自身は何もしていない。なのに、誰にも愛してくれない。そこにいるだけで拒絶される。それが悲しかった。
しばらくして、バスケットは薬草でいっぱいになった。さぁ帰ろうと、ココは腰を上げた。
――そしてようやく気付いた。村からいくつもの黒い煙が立ち上っていることに。
「…な…何が起こったの…!?」
状況が全く掴めないが、母の身が心配になったココは村へと急いだ。
例え疎まれていても、自分を産んでくれた人だ。失いたくはなかった。
→