16 偽りの微笑み



開け放たれた窓から、夜風が吹き込んだ。
煽られたココの金髪が、まるで翼のようにぶわりと広がる。

(天使――…?)

シャルロットは思わずそれに魅入り、そして悟った。


これから裁きの時間が始まることを。



「あなたが、サフィアス王子の本当の婚約者だったのね」

震える声でそう言った時、ココの心は壊れそうだった。
これを口にしたらシャルロットとは、大好きな姉とは、もう今までのように一緒にいられなくなるかもしれない―――
今のココにとって、それほど恐ろしいことはなかった。

だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。姉よりも大事な、あの人に会うためには。
そのためには、どうしても口にしなければいけない。このかりそめの甘美な生活に終止符を打つには、それしかないのだから。
そして軋む心に気付かないふりをして、言った。

だが、姉の顔からいつもの優しい笑みが消えた時、ココの胸は張り裂けそうになった。


(あぁ…やっぱり…)

愛してくれた姉は、もういない――

(…違うわ。始めから、この人は私のことを愛してなどなかった)
愛していたなら、こんな仕打ちはしないはずだ。

「…ごめんなさい」

シャルロットが、ぽつりと言った。

「謝って、すむことではないわね。私は貴女の心に傷をつけてしまった。…心の傷は消えないものだと、知っているのに」

「…私に優しくしてくれたのは…私の反発を抑えるためだったの…?」

シャルロットは一瞬目を見開いた後、顔を背けて何も言わなかった。

(悔しい――…!!)

涙が溢れそうになるのを、ココは歯を食いしばってこらえた。

(ガルティウス人を信用した私が馬鹿だった!!)

この人の側にいられるのならこのままここにいてもいい――…そう思った自分。
自分と母を傷つけ、そして殺した敵を信頼してしまった自分。
そしてなにより、この期に及んでも心のどこかでこの姉の偽りの優しさを求める自分が悔しかった。

「――どうしてこんなことを…っ!私はあなたのことを信じてたのに!!」

「…貴女には、それを知る権利があるわね」

淡々とシャルロットが言う。これが、この人物の本来の性分なのだろうか。

「では教えましょう。身代わりの花嫁が必要になった、その理由を――…」