18 昔語りU



それから数年後――…
シャルロットは美しい少女へと成長していた。
太陽の光を集めたかのような金髪に、聡明な青の瞳をもつシャルロットは今や社交界の花形だった。
昨夜の舞踏会も、彼女の回りには人だかりができていた。

しかしシャルロットの回りに人が集まるのは美貌のせいだけではない。
ガルティウス王家に次ぐ名家、ルドナー公爵家の地位は青年貴族やその親にとって垂涎の的だ。
その上公爵夫妻の仲が険悪になるばかりなために、公爵家の子息は今もシャルロット一人だ。もっとも、それは父が愛人達との間に作った数の知れない非公式な子供達を抜いた場合だが。


(弟…か……)

ふぅ、とシャルロットは息をついた。
これから屋敷の広間で始まることを思うと、どうしても気が沈む。
今宵、ついに公爵家の後継ぎが決まるのだ。
嫡子が決定される今宵のパーティーは証をもつ全ての子とその母が招待されている。
だが、シャルロットの母である公爵家の奥方は出席しない。否、出来ないというほうが正しいだろう。
彼女は半年前にこの世を去っているのだから。

(お母様……)

母を想うと、まだ癒えていない心が痛んだ。

『シャルロット、貴女は女であるがために公爵家の後継ぎとなることは出来ないわ。だけど忘れないで。貴女は私のたったひとつの宝物。大事な娘よ』

死の直前にそう言った母の顔を今でも鮮明に覚えている。
けれど父は母が死んで早々に後継ぎを決定することを決めた。
今まで国王の姉である母への配慮からずっと先延ばしされていたそれを実行することは、シャルロットには父が母を廃除しようとしているとしか見えなかった。

(弟なんて……いらない。大嫌い……!)

父の愛を奪った上に家まで乗っ取ろうとする弟など、見たくもない。

(私の弟なんて絶対認めるものですか)

その時ふと、母の言葉の続きを思い出した。

『貴女は貴女が愛した人と結ばれなさい。貴女だけを愛する人を見つけなさい』

それは政略結婚という愛のない婚姻に縛られた、母の1番の望みだった。

(私だけを愛する人見つける……?――そうだわ、そうしましょう)

シャルロットは決心した。自分だけを愛してくれる人を探そうと。
たとえ父やたくさんの弟がいたとしても、シャルロットのことを家族だと思って大事にしてくれる者は誰もいない。

だったら探しに行くまでだ。