22 昔語りY



「―――…ま……姫様!」

自分を呼ぶ声でシャルロットが目を覚ますと、そこに青い顔をした侍女がいた。

「姫様……!よかった……なかなかお目覚めにならないから私、心配で心配で……!!」

「アニー……。心配かけてごめんなさい」

侍女の頭をそっと撫でてやると、途端に彼女は泣きだしてしまった。

「旦那様のお仕打ちはあんまりですわ!姫様をサフィアス殿下のもとへ嫁がせるだなんて!!

姫様と若様は深く愛し合われているのに」

「アニー、声が大きいわ」

腹違いとはいえ肉親の恋愛は法でかたく禁じられているため、二人の恋は人に知られるわけにはいかない。知っているのは当事者である二人と、シャルロットが最も信頼している侍女アニーだけだ。
だが泣き叫びたいのはシャルロットのほうだった。
貴族の娘に生まれた以上、いつか政略結婚させられることは分かっていた。けれどいざ突き付けられた時これほど苦しむことになるなんて、考えたこともなかった。

(ギルスト……!)

胸を締めつけるような痛みを感じ、シャルロットはある決心した。

「……アニー。わたくしやはりギルスト以外に肌を許すなんて考えられない。だから―――お願いがあるの」

「は…はい。何なりと」

そして、シャルロットは耳打ちを始めた。



―――それから三ヶ月後。


砦の奪回を無事終え国王へ帰還の報告も終えた後、馬車を待つ間も惜しんで屋敷へと戻ったギルストは、久しぶりの我が家でくつつろぐことなく一心不乱に廊下を進んでいた。
脳裏に、帰途につく途中耳にした噂がよぎる。


『王子様の婚約者が決まったらしい。なんでも相手はあのルドナー公爵家の姫君だとか―――』


そして先程問いただした執事に聞いたもう一つの報せが、彼に更なる衝撃を与えた。


『シャルロット様は三ヶ月前に毒を飲んで自害を謀られて以来、意識が戻らず眠ったままです――』