24 白き光
――心が、痛い。
痛くて痛くて、堪えきれずに涙が溢れだした。
それでも忍び寄る絶望と孤独から逃げることはできない。
怖い―――…!
「助けて…ジーク……!」
昔のようにそっと抱きしめ頭を撫でて、微笑んでほしい。
このままでは、心が壊れてしまうから―――
するとまるでココに応えるかのように、左手の刻印がまばゆいほどの白い光が放ち始めた。
――二つの血を併せ持つ娘よ。我の声がきこえるか
どこからか感情のない、だが不思議と温かさを感じさせる声が響いてきた。
「…誰……?どこにいるの……?」
辺りを見回して、ココはようやく自分が見知らぬ場所にいることに気付いた。
そこは先ほどまでいた絢爛豪奢な寝室ではなく、まるで雲に潜り込んだかのように白いもやに包まれた空間だった。
そして、気付いた時にはココの目の前に一羽の大鳥がいた。
雪のように白く美しい羽根と、思慮深い瞳をもつその大鳥の名をココは知っていた。
「まさか…創造神、レヴィネル……!?」
――いかにも。我はレヴィネル。大地と生命を創造せし者。
そして、そなたの左手に縛られし者だ
「―――え……?」
ココは左手の刻印を見つめた。ここに神が―――?
――資格をもつ娘よ、我を解き放て。
さすればそなたの望み、叶えてやろう
「え……!?ち…ちょっと待って」
コは混乱のあまり頭を抱え込んだ。
「ど…どういうこと?レヴィネル様と契約できるのは賢者の血を引く者―――ジークだけなはず……」
自分にその資格などないはずだ。それに神が縛られているとは―――?
――今はまだ、眠っているのだ。この世でただ一人、そなただけが持っている世界を変える力は―――
声が途絶えると同時に刻印からより一層まばゆい光が辺りを包み込み、ココの意識は遠のいていった。
「――姫様!シェリー様!お目覚めになってください!!」
突然侍女に揺さぶられ、ココは目を覚ました。いつもと違う、やけに乱暴な起こし方にいささか不満を抱きつつ身を起こす。
(……今のは…夢……?)
ぼんやりと左手を見やり、ココは冷笑した。
(
まさかね。この呪いの刻印に神様がいるだなんて、ありえないわ。それに私に力だなんて……)
きっと姉の裏切りで気が動転していて見た、都合のいい夢に違いない。そうココが自分に言い聞かせていると、侍女が切羽詰まった顔で着替えを持ってきた。
「姫様!早くご仕度なさって下さい!!旦那さまが…ルドナー卿がお待ちです」
「え……!?」
大急ぎで仕度を済ませたココは、養父の待つ客間へと急いだ。
「――お待たせして申し訳ありません」
シャルロットの教えのとおりドレスをつまんで優雅に礼をする。
「ほう……見事だ。王の妃となるに何の遜色もない」
満足そうにココを眺めるルドナー卿の隣にはシャルロットがいた。
「完璧だ……!でかしたぞシャルロット。よくぞ短期間でここまでしつけたな」
「恐れ入ります」
シャルロットが微笑む。だが、それは昨日までのものとはどこか違って見えた。
「後の細かい作法やらしきたりはおいおい身につけていけばいいだろう。シェリー、予定より半月早いがお前はこれから城に移る」
「そんなっ……!」
それではますます脱出は不可能になるではないか。
焦るココを尻目にルドナー卿は続ける。
「結婚前に身代わりの花嫁の事情を王子に話しておかなければならないからな。本人がいなければあの老いぼれ宰相がまた因縁をつけてくるだろうから、一時間後の出発までに仕度してこい」
言うだけ言うと、ルドナー卿は踵を返した。
(じょ、冗談じゃないわ!)
なんとしても出発までに逃げ出さなければ、というココの心を読んだかのように背を向けたままルドナー卿は言った。
「…女だけでは荷物を運ぶのに時間がかかるな。ギルストにも手伝わせよう」
その時、微かにシャルロットの肩が揺れたのをココは見逃さなかった。
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