25 そして舞台は王城へ



「…まさかここまで化けるとはな。まるで別人だ」

上から下までココを観察したギルストは開口一番にそう言った。
物腰や振る舞いが洗練されたことはもちろんだが、なによりも変わったのはその目つきだ。

(以前は私を見るたびに怯えた目をしていたが……)

今、ココはギルストを静かに見つめている。

「―――なぜ私を見ても怯えない?」

するとココはこう答えた。

「……お姉様に聞いたの。あなたとお姉様のこと」

「―――!」
ギルストが目を見開いた。その様子を見て、ココはやはり、と思った。

「…あなたは、苦しみや痛みを隠すためにわざと冷徹で残虐なふりをしてる。でも本当は昔のまま優しい人なんでしょう?」

「………何を言うかと思えば、そんな戯れ事を」

ギルストは嘲笑を浮かべ、ココから目をそらした。

「さっさと仕度をしろ。この国逃げ出すなんて甘い考えは捨てるんだな」

それきり背を向けた義兄の背中をしばらく見つめたあと、ココは仕度を始めた。





半月ぶりに訪れたリーゼラント城は相変わらず荘厳だった。
ココはルドナー卿とともにサフィアスの部屋へと通された。

「――なるほど、子が産めなくなった一の姫の代わりにこの娘を……」

そう唸るのはルドナー卿の政敵ヌーヴェ宰相だ。
苦い顔の宰相とは裏腹に、当のサフィアスは平然としていた。

「私は構わないぞ」

「殿下!?何をおっしゃいますか!」

慌ててヌーヴェがまくし立てた。

「この娘はあの憎きレヴィネリア人の血を半分持つ混血ですぞ!おまけに我が国を侮辱しました」

「王妃など即位のための飾りだ。世継ぎが産めるなら私はだれでもいい」

「しかし……!」

サフィアスはうるさそうにヌーヴェを見た。

「即位式及び結婚式まであと半月しかないのだぞ。ルドナー家の姫は、一の姫とこやつしかいないのだから仕方あるまい。……それとも」

鋭い睨みがヌーヴェを貫いた。

「おまえはまだ私が王にふさわしくないとでも言うのか、ヌーヴェ」

「め…滅相もございません!私はいつでもこの国のことを第一に考えているだけです。あの方をお呼びしたのも、全ては国の行く末を思ってのことです……!」

(あの方……?)

ココが首を傾げたことになど気付くはずもなく、その後話は進み、ココは一足先に退室した。



部屋を出ると女官達が待ち構えていた。

(ああもう!これじゃいつまでたっても逃げられないじゃない!!)

半月後の結婚式までに何としても脱出しなければならないのに―――

「お待ちしておりました、姫君。さぁ、お部屋へご案内いたしましょう」

人の良さそうな女官長に促されれば、素直に従うしかなかった。