31 ふたりの王子



侍従の言葉に式場の貴族達は凍りつき、静まりかえった。
だが次の瞬間、侍従が突如背後に現れた凶悪そうな面構えの男―――つまり脱獄犯に切り殺されたことでその静寂は打ち破られた。

「キャアァァ―――!!」

とある貴婦人の悲鳴を皮切りに式場内はパニックに陥った。
悲鳴をあげながら逃げ惑う貴族達を、どこからか現れた別の脱獄犯たちが容赦なく切り付ける。
白石の床は瞬く間に赤く染まり、血の海には虚ろな目をした死体が転がる。

「い――いや……っ!」

ココの口から、悲鳴に近い声が漏れた。

(これはあの時――村が襲われた時と同じ……!)

一月前の恐ろしい記憶が甦ってくる。

立ち込める血の匂い。

降りかかる生暖かい鮮血。
そして自分への憎悪を剥きだしにした母の瞳―――

―――おまえなんて、産むべきじゃなかった……!

「いやあああっ!」

ココの悲鳴が空気を切り裂く。

「シェリー!―――しっかりしろ、シェリー!!」

突然錯乱し始めたココにサフィアスが駆け寄ろうとしたとき、彼の頬に激痛がはしった。

「―――ッ!!」

サフィアスの頬に描かれた曲線から真紅の血がつつ……と流れる。

「サフィア―――うっ!」

我に帰ったココの口を後ろから男がふさいだ。

「シェリー!!」

サフィアスが懐の銃に手をのばすと、男は血のしたたる剣をココの首筋に押しつけた。

「動くんじゃねえ!動けばこの姫を殺すぞ!!」

しん……と式場が再び静まりかえる。
そして男はまるで神々の言葉を告げる神官のように高らかに告げた。

「サフィアス。貴様はこの国の王にふさわしくない男だ」

「……なんだと?」

サフィアスの鋭い視線を受けながらも男は続けた。

「ふっ……しらばくれるつもりか?だが知らぬとは言わせないぞ。―――貴様が次々と囚人を処刑し、そして『鎧人形』として甦らせたことをな……!」

生き残っていた貴族達が息を呑むのが聞こえた。

「し…死者を甦らせるだと……!?」

そんな馬鹿な!とあちこちから声があがる。

「いくら我らガルティウス人が編み出した錬金術が優れていようと、死者を甦らせることなど……」

「それに、万が一この話が真実だったとしても、殺されたのは凶悪な囚人のみ!なんの問題もないではないか!」

「そうだ!囚人風情がサフィアス殿下を愚弄するな!!」

だが貴族たちに罵声に男はにやりと笑みを浮かべた。

「ふん……。ならば、殺されたのが囚人以外なら、この男―――サフィアスは王に相応しくはないと認めるんだな?」

「何だって……!?」

驚愕の表情を浮かべる貴族たちと鋭いまなざしのサフィアス、そして喉に剣をあてがわれたままのココに男は静かに告げた。

「この男は囚人を殺すだけでは飽きたらず、王妃と第一王子―――つまり、実の母と兄を手にかけたのだ」