34 ふたりの王子W



その冷たい銀色の輝きに、ココは見覚えがあった。

「これは…『鎧人形』の……!?」

「―――その通りだ」

そう答えたのはガーネットではなかった。

「サフィアス……!」

暗がりから姿を表すと、サフィアスは静かに告げた。

「その男は『鎧人形』。―――つまり、一度死んだ人間だ」

「ガーネットが『鎧人形』ですって……!?」

振り仰いでみるものの、ガーネットは無表情なまま何も言わない。
だが確かに今考えると、彼の人間らしからぬ点がいくつか思い当たった。
まるで人形のように動かない表情。
体温を感じさせない、冷たい手。
あれは、彼が生者ではない証だったのだ。

「ガーネット……。あなたは―――」

すると、サフィアスが眉をひそめた。

「……なるほど。近ごろそいつの封印が解けかかっていると気付いてはいたが……シェリー、お前の仕業だったのか」

「え……?」

何のことだとココが問おうとした時、それまで息を潜めていた男がサフィアスに襲いかかった。

「サフィアス!」

だがサフィアスは一片の動揺も見せず、冷めた目をして言った。

「―――殺せ『カレン』」

それは、一瞬の出来事だった。
サフィアスの背後から何かが飛び出したかと思うと、男の首が鮮血を振り撒きながら宙を舞った。

「きゃあっ!!」
ゴロン、と首が足元に転がり、ココは思わずガーネットにしがみついた。
だが、恐ろしいのはそれだけではなかった。
サフィアスの傍ら―――つまり先ほど男を殺した『それ』を見たココは凍りついた。

「なっ…何なの『それ』は……!?」

『それ』は、『鎧人形』と似て非なるものだった。
鋼が剥きだしの人体に所々肉塊がついているのだ。
灰色に変色した肉塊はそれそのものが生きているかのように脈をうちうごめいている。
しかし、ココが衝撃を受けたのは不気味な見かけではなく、『それ』の容貌だった。
黒ずみ、生気のない顔に、醜い容姿に不釣り合いなほど美しい黒髪―――

「それは……いいえ、その人は、まさか―――」

「察しが早いな。そう、これは神凪華蓮。私とその男―――ガーネットの母だった女だ」