36 ふたりの王子Y
「そんなっ……!」
そうこうしている間にも、ガーネットと『カレン』は戦い続けている。
(どうすれば……。どうすれば、二人を止められるの……!)
まず二人の間に入って止めることを考えた。
だが戦う術のないココが割入ったところで、何の意味も持たず、ただ二人に攻撃されるだけだ。命の危険もある。
(何か、別の方法を考えなくちゃ……)
解決の糸口を捜すため、今までに得た情報をかき集める。
(そうだ……さっきサフィアスが言ってた)
―――『鎧人形』は痛覚をなくすために触覚を、恐怖をなくすために感情を、より忠実に制御するために記憶を封印されているのだ。
今の二人は敵を抹殺するための兵器。敵を殺すまで誰の言葉も耳に入りはしない―――
(ガーネットは…『鎧人形』はあらゆるものを封印されてる。忠実な兵器にするために。―――じゃあもしその封印が解けたら、二人は操り人形ではなくなる……!?)
失われた人だったころの記憶と感情を取り戻すことができたなら、その可能性はある。
だが問題は、その封印をどうやって解くかだ。
(たしかサフィアスは私のせいでガーネットの封印がほとんど解けかけてるって言ってたわよね……)
ならば、自分の行動を遡って思い出せばいい。
(思いだすのよ……ガーネットと出会ってからのことを)
初めて会ったのは、村が襲われた一ヶ月前のあの日。
彼はココをさらった張本人だった。
そして次に会ったのは国境を越えた街の屋敷だ。
気を失っていたココを見舞い、温かいシチューを持ってきてくれた。
名を尋ねると、彼は奪われたと言ったから呼び名をつけた。
それから―――
(ちょっと待って。『名前を奪われた』……!?)
ココは当初、彼が奴隷のように名前を捨てられたのだと思った。
(だけど『鎧人形』はより忠実な兵器にするために記憶を封印されてる……!)
もし、『名前を奪われた』というのが封印のことだとしたら―――
(封印を解く鍵は名前……!)
しかし、これだけではまだ事は解決しない。
あの時―――ココが『ガーネット』と名付けた時、彼は一瞬驚いた顔をした。
感情を封印されたはずの『鎧人形』が驚いた。
つまり、ココが『ガーネット』と呼んだことによって封印が少し解けたのだ。
たが、未だに彼の封印は完全に解けていない。
(封印が解けたってことは名前は間違ってないはずだわ。あとはサフィアスが言ってた最後の『鍵』さえ分かればっ……!)
ココが頭を抱えた時、ガーネットの剣が『カレン』を壁に追い詰めた。
些かの躊躇もなく、ガーネットは剣を構える。
そして―――
「ダメ……ッ!」
咄嗟に手を伸ばした刹那、左手の刻印が一瞬白く輝いた。同時にココの脳裏に記憶が流れ込んでくる。
神聖な式場に集まった貴族達が見守るなか、神官長は言った。
『―――ただいまこの時より、サフィアス・ルエ・ガルティウスを国王とする』
この言葉とともにココは最後の『鍵』を手に入れた。
(合ってる保証はどこにもない!だけど、一か八か、やってみるしかない!!)
―――もうこれ以上、目の前で人が死ぬのは見たくないから―――!
「目を覚まして!
ガーネット・ルエ・ガルティウス―――!」
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